現代社会と生きがい

現代社会で生きがいを探すということ


わたしたちは、日々のルーティン活動を「受動的」な態度でこなしています。言い換えれば、さまざまな活動を意図的に選択して行っているというよりも習慣的・自動的に行っています。そのせいで、視界に入る商品や情報に引きずられ、心の深いレベルに眠っているもっと成長したいとか、能力を伸ばしたいという欲求が隠れたままになっています。マスローは、成長したいという欲求を「自己実現欲求」と呼んでいます。
わたしたちは、人生の前半において学校で社会に適応するために必要な知識を学んできました。卒業後、企業や役所で与えられた職務を遂行し、自営業ならば専門職を通して必要なスキルを磨きます。職場では、「顧客」のニーズを調査し、リピーターになってもらえるように商品を開発し、サービスの改善に努力をしています。
多くの人は仕事上、「他人」のニーズを深く探そうとしています。しかし「自分」の深いレベルにあるニーズを掘り起こしたり、「生きがい」を探す努力をしている人は少ないようです。さらに「自分探し」をしているに対して現実から逃げているとか世間離れしているとか揶揄する社会的な風潮も見受けられます
企業が提供する商品やサービスを受動的な「消費者」として満足するように求められている価値観の中で、わたしたちは、より強い刺激を絶え間なく探し、目新しいサービスを受けることに多くの時間をさいています。「消費」をすることに慣れてしまい、自分の心の深いレベルにある欲求に気づくことができなくなっているのではないでしょうか?
退職後の人生設計についても、自分で意図的に探す代わりに商品やサービスとして提供されていて受動的に購入することが当たり前になっています。
人生の後半のある時点で、「顧客」や「家族」のためだけではなく、自分が成熟することとはどのようなことなのか、成熟するためには、具体的に何をすればよいのかについて考える機会を持つことが必要なのではないでしょうか?


挫折や諦(あきら)めることについて


本講座では、成功だけではなく、ネガティブな出来事に対処するための心構えや諦めることの意義についても考えていきます。「諦」という漢字には、明らかにするとか、見極めるというポジティブな意味もあります。
成功法則に関する情報は、書籍やネット上に溢れています。ただし社会的な尺度(地位、収入、社会的評価の増大)における成功を達成できるのは、一部の人だけです。そのために多くの人が欲求不満を抱えています。
成功法則の中には、失敗について言及したものもありますが、それらは失敗を回避する方法や、失敗を教訓としてさらなる成功を目指すといったものが多いです。
人によっては、大きな挫折を体験し、再挑戦ができなくなってしまうこともありますが、失敗を糧に人間的な成長につながることがあります。大病や大きな挫折などの不幸な経験を経て「深みがある」とか「味がある」人などと評価される人たちのことです。反対に乗り越えられずに諦める場合もありますが、いずれの場合でも出来事に対する解釈次第で、成熟の糧にすることができます。
年をとるにつれ「諦める」ことについて考えることが重要になってきますが、現代日本社会では、死を忌避する一般的な傾向ともに、挫折や別離といったネガティブな経験を深く考えないようにする傾向があります。本講座では、あえて一般的な風習に逆らって、ネガティブな感情をともなう「不幸な出来事」を直視し、それに対処する方法を探究していきます。